親世代のためのデジタル資産整理:情報一覧の作り方と安全な保管場所
デジタル資産の整理を始めたいけれど、何から手をつければ良いか分からないと感じている方は少なくありません。一口にデジタル資産と言っても、メールやSNSのアカウント、オンライン銀行や証券口座、クラウドストレージ上の写真や書類など、種類は多岐にわたります。これらすべてを把握し、もしもの時にご家族が困らないように情報を整理しておくことは、非常に重要なステップです。
その第一歩として、ご自身のデジタル資産に関する情報を「一覧化」することをおすすめします。この一覧は、デジタル遺産整理の全体像を把握し、具体的な作業を進める上での基盤となります。
なぜデジタル資産の情報一覧が必要なのか
デジタル資産の情報一覧を作成することには、いくつかの大切な目的とメリットがあります。
- ご自身のデジタル資産の全体像を把握するため: 知らず知らずのうちに利用しているサービスや、忘れていたアカウントなどを再確認できます。
- 整理漏れや対応漏れを防ぐため: 一覧があれば、どの資産について整理が必要か、対応が済んでいるかなどが明確になります。
- もしもの時、ご家族が情報を探しやすくするため: ご自身に何かあった場合、ご家族がデジタル資産の存在を知り、必要な手続きを進めるための重要な手がかりとなります。
- 不要なサービスの解約や整理を進めるきっかけとするため: 一覧を作る過程で、利用していないサービスや、整理が必要なデータなどに気づくことができます。
情報一覧は、いわばご自身のデジタルライフの「目録」です。この目録があることで、整理の作業が格段に進めやすくなります。
情報一覧に含めるべき項目
情報一覧を作成する際に、どのような情報を盛り込むべきか迷うかもしれません。最低限含めておきたい基本的な項目は以下の通りです。
- サービス名/アカウント名: どのようなサービス(例:Google, Yahoo!, Amazon, Facebook, LINE, 〇〇銀行, 〇〇証券, iCloud, Dropboxなど)のアカウントか。
- 登録しているIDまたはメールアドレス: アカウントにログインするためのIDや、登録時に使用したメールアドレス。
- 登録電話番号: アカウントに登録している電話番号。パスワード再設定時などに必要となる場合があります。
- 関連情報: サービスの性質に応じて、以下のような情報を追記すると良いでしょう。
- オンライン銀行/証券口座の場合:支店名、口座番号、名義人、連絡先電話番号など。
- クラウドストレージの場合:保存している主なデータの内容(写真、書類など)。
- 有料サービス(サブスクリプションなど)の場合:契約内容、支払い情報、解約方法など。
- その他:重要なデータが保存されているか、資産価値(預金残高、証券残高、ポイントなど)の有無、ご家族へ引き継ぎたいか削除したいかなどの意向。
- 備考: 二段階認証の設定状況や、ご家族へ伝えるべき特別な注意事項などを自由に記載します。
パスワードの記載について: 情報一覧にアカウントIDとともにパスワードを直接記載することは、情報漏洩のリスクを高めるため、推奨できません。パスワードは、後述するような安全な方法で管理し、一覧には「パスワードは別の方法で管理」などのように記載するにとどめるのが安全です。もし記載する場合は、ご家族以外には決して見られないよう、厳重な保管が必要です。
情報一覧の具体的な作成方法
情報一覧を作成する方法は、ご自身の使い慣れた方法や、情報の量、セキュリティの考え方に応じていくつか選択肢があります。
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手書きで作成する:
- ノートやエンディングノートなどに手書きで情報をまとめます。
- メリット:特別なツールは不要で手軽に始められます。デジタル機器が苦手な場合も安心です。
- デメリット:紛失や物理的な劣化のリスクがあります。修正や更新の手間がかかります。記載量が多いと管理が煩雑になる可能性があります。
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PCやスマートフォンのアプリで作成する:
- 表計算ソフト(スプレッドシート): ExcelやGoogleスプレッドシートなど。項目ごとに整理しやすく、情報の追加・修正が容易です。
- メモアプリ: スマートフォンのメモ機能や、Evernote、OneNoteなど。手軽に始められますが、情報の整理には工夫が必要です。
- メリット:情報の追加・修正が容易で、検索も可能です。ある程度のPC/スマホスキルがあれば利用しやすい方法です。
- デメリット:ファイルが破損したり、保存場所が分からなくなったりするリスクがあります。ファイル自体や利用しているサービスのセキュリティ対策が必要です。
- パスワード管理ツール: パスワードだけでなく、アカウント情報全般をまとめて管理できるツールが増えています(例:LastPass, 1Password)。
- メリット:高いセキュリティで情報を一元管理できます。家族と安全に情報を共有する機能を持つツールもあります。
- デメリット:ツールの使い方を覚える必要があります。ツール自体が利用できなくなった場合のリスク(マスターパスワードを忘れるなど)があります。
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デジタル遺産整理サービスを利用する:
- 専門の企業が提供する、デジタル資産情報の保管・管理サービスです。
- メリット:デジタル遺産に特化しているため、必要な情報を網羅的に管理しやすい設計になっています。セキュリティ対策がされています。もしもの際の家族への情報開示サポートなど、付帯サービスがある場合もあります。
- デメリット:サービスの利用料がかかります。サービス提供会社の信頼性や継続性を確認する必要があります。
ご自身のPCスキルや、整理したい情報の量、重視するセキュリティレベルなどを考慮して、最適な方法を選択してください。まずは手軽な方法から始め、徐々に適切な方法へ移行することも可能です。
作成した情報一覧の安全な保管場所
情報一覧を作成したら、その情報を安全に保管し、必要な時にご自身やご家族がアクセスできるようにしておくことが最も重要です。パスワードなどを直接記載している場合は、特に慎重な取り扱いが必要です。
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物理的な保管場所:
- 自宅の鍵のかかる引き出しや金庫。
- 信頼できる家族に預ける(ただし、内容については慎重に)。
- 金融機関の貸金庫(手書きや印刷した一覧の場合)。
- メリット:デジタル的なリスク(ハッキングなど)はありません。
- デメリット:火災や盗難、紛失のリスクがあります。ご家族が場所を知らないと意味がありません。
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デジタル的な保管場所:
- パスワード管理ツール内: 最も推奨される方法の一つです。ツール自体が高いセキュリティで保護されており、マスターパスワード一つで管理できます。
- 暗号化されたファイル: 作成したファイル(スプレッドシートなど)を強力なパスワードで暗号化し、ご自身のPCや信頼できるクラウドストレージに保存します。
- 信頼できるクラウドストレージ: DropboxやGoogle Driveなどの信頼できるサービスを選び、セキュリティ設定(二段階認証など)を強化したフォルダに保存します。
- デジタル遺産整理サービスのシステム内: サービスが提供する安全なシステム上で管理します。
- メリット:情報の検索・更新が容易です。複数の場所からアクセス可能な場合があります。
- デメリット:不正アクセスやサービス停止のリスクがあります。アクセスするための鍵(マスターパスワードや暗号化パスワード)をどう伝えるかが課題です。
保管場所を選ぶ上での注意点:
- ご家族がその存在を知っているか: どんなに安全な場所に保管しても、ご家族がその存在や場所を知らなければ、もしもの時に情報は活用できません。
- アクセス方法を伝えているか: デジタル的な保管場所の場合、アクセスするためのマスターパスワードや暗号化パスワードなどを、ご家族が安全に受け取れるようにしておく必要があります。エンディングノートや遺言書に記載する、信頼できる家族に直接伝える、専門サービスを利用するなど、伝える方法についても計画しておきましょう。
- セキュリティ: 選択した保管方法やサービスが安全なセキュリティ対策を講じているかを確認しましょう。
家族との対話と情報更新の重要性
情報一覧を作成し、安全な場所に保管するだけでは十分ではありません。最も重要なのは、作成した情報一覧の存在を信頼できるご家族に伝え、もしもの時にどのように活用してほしいかを話し合っておくことです。
また、オンラインサービスは日々変化し、ご自身が利用するサービスも増えたり減ったりします。情報一覧は一度作ったら終わりではなく、定期的に(例えば半年に一度など)見直し、情報を更新することが大切です。新しいサービスを利用し始めた時や、パスワードを変更した時などに、一覧を更新する習慣をつけましょう。
まとめ
デジタル資産の情報一覧作成は、デジタル遺産整理の最初の一歩であり、ご自身とご家族が将来困らないための重要な備えです。まずは、ご自身がどのようなデジタル資産を持っているかを把握することから始め、ご紹介した項目を参考に一覧を作成してみてください。作成した情報は、ご家族と話し合いながら、安全な場所で管理・保管しましょう。この一覧を基盤として、デジタル資産の整理を具体的に進めていくことができます。
情報一覧の作成は、ご自身のデジタルライフを振り返る良い機会でもあります。焦らず、ご自身のペースで取り組んでみてください。