親世代のためのデジタル遺産整理:二段階認証・生体認証への対応方法
はじめに
デジタル資産の整理を進める中で、オンラインサービスへの安全なアクセスは重要な要素となります。近年、多くのサービスでセキュリティを強化するため、二段階認証や生体認証といった仕組みが導入されています。これらの認証方法は、ご自身が利用されている間は非常に有効ですが、もしもの時にご家族がアカウントへアクセスしようとした際、大きな壁となる可能性がございます。
この記事では、親世代の皆様がデジタル遺産整理を行うにあたり、二段階認証や生体認証がもたらす影響と、ご家族が困らないようにするために今からできる具体的な対策について解説いたします。
二段階認証・生体認証とは
まず、二段階認証と生体認証について簡単にご説明します。
- 二段階認証: 通常のパスワード認証に加えて、もう一つ別の方法で本人確認を行う仕組みです。例えば、パスワードを入力した後、登録済みのスマートフォンに送られてくるコードを入力したり、特定の認証アプリで生成されたコードを使用したりする方法があります。これにより、たとえパスワードが漏洩しても、第三者による不正アクセスを防ぐセキュリティ効果が高まります。
- 生体認証: パスワードの代わりに、指紋や顔、声など、個人の身体的な特徴を用いて本人確認を行う方法です。スマートフォンやパソコンのロック解除などで広く利用されています。
これらの認証方法は、ご自身のデジタル資産を不正アクセスから守る上で非常に有効です。しかし、ご本人が利用できなくなった場合、これらの認証情報(スマートフォンの受信コード、指紋、顔など)はご家族が簡単に取得できないため、合法的な相続人であってもアカウントへのアクセスが困難になるケースが多くあります。
遺族が直面する課題
もしもの時、ご家族が故人のデジタル資産(オンライン銀行、証券口座、SNS、メールなど)にアクセスしようとした際に、二段階認証や生体認証が設定されていると、以下のような課題に直面する可能性がございます。
- 二段階認証のコードが受け取れない: 登録した電話番号が故人名義で、その端末にアクセスできない、または故人のメールアドレスにしかコードが送られないといった場合、認証を突破できません。
- 生体認証が利用できない: 指紋や顔はご本人固有の情報であるため、ご家族が代わりに認証を行うことは物理的に不可能です。
- リカバリーコードや代替手段が不明: サービスによっては予備のコードや別の認証方法が用意されていますが、その存在や保管場所をご家族が知らない場合、利用することができません。
- サービス提供者への手続きの煩雑化: 二段階認証などが原因でアカウントにアクセスできない場合、サービス提供者に対して煩雑な手続き(死亡証明書の提出など)を経て、アカウントの停止やデータの開示を依頼する必要が生じることがあります。サービスによっては、そもそも遺族からのアクセスやデータ引き継ぎに対応していない場合もございます。
親世代ができる具体的な対策
ご家族が将来デジタル遺産で困らないようにするため、二段階認証や生体認証が設定されているアカウントについて、今からいくつかの対策を講じておくことが重要です。
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二段階認証・生体認証の設定状況の把握と記録: ご自身が利用しているオンラインサービスのうち、どのサービスで二段階認証や生体認証を設定しているかを確認し、記録に残しておきましょう。サービス名と、どのような方法(SMS、認証アプリ、リカバリーコードなど)で設定しているかをまとめておくことが第一歩です。デジタル資産棚卸しの際に、これらの認証方法も一緒に確認すると効率的です。
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代替認証手段に関する情報の整理と保管: 多くのサービスでは、二段階認証の手段を複数設定できたり、リカバリーコードを発行できたりします。これらの代替手段に関する情報を整理し、安全な場所に保管してください。
- リカバリーコード: 大切に印刷またはデータとして保管し、その保管場所を家族に伝えます。
- 予備のメールアドレス/電話番号: 登録している場合は、それらのアクセス情報も必要に応じて整理します。
- 設定方法に関するメモ: サービス固有の認証方法がある場合は、簡単にメモを添えておくと分かりやすいでしょう。
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家族への情報伝達と共有方法の検討: 設定状況や代替手段の情報を整理しただけでは不十分です。その情報が「どこに」「どのような形で」保管されているのかを、信頼できるご家族に伝えておくことが最も重要です。
- エンディングノートやデジタル遺産リストに、二段階認証に関する情報がどこにあるかを記載します。
- パスワード管理ツールやクラウドストレージなどを利用して情報を一元管理している場合は、そのアクセス方法と、二段階認証に関する情報が格納されている場所を明確に伝えます。
- 直接ご家族と話し合い、どのようなデジタル資産があり、それぞれどのようなセキュリティ設定がされているか、そして困った時にどこを見れば良いかを共有する時間を持ちましょう。
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アカウント設定の見直し(可能な場合): 一部のサービスでは、二段階認証の設定方法を変更できる場合があります。例えば、よりアクセスしやすい代替手段(信頼できる家族のメールアドレスを追加するなど、サービスが許容する場合)がないか検討する、あるいは一時的に設定を緩和するといった選択肢も考えられますが、これはご自身のセキュリティレベルを下げることにもつながるため、慎重な判断が必要です。サービスごとの規約や設定オプションを確認してください。
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継続的な情報更新: 利用するサービスや設定は変化する可能性があります。新しいサービスを利用開始したり、スマートフォンの機種変更や電話番号変更を行ったりした際には、デジタル資産リストや二段階認証に関する記録も忘れずに更新してください。
家族との対話を通じて理解を深める
二段階認証や生体認証といった技術的な側面だけでなく、ご家族がデジタル遺産に対してどのような不安や疑問を抱いているのかを知ることも大切です。そして、なぜこれらのセキュリティ対策を講じているのか、その背景も含めて共有することで、ご家族もデジタル遺産整理の重要性を理解しやすくなります。
「もしもの時に、このアカウントには二段階認証を設定しているから、こういう情報(リカバリーコードなど)が必要になるかもしれないよ」といった具体的な形で伝えることで、ご家族もいざという時に慌てずに行動できるようになります。
注意点
- 全てのパスワードや認証情報を一つの場所にまとめて保管し、その保管場所のセキュリティが低い場合、情報漏洩のリスクが高まります。安全な保管方法(暗号化、信頼できるサービス利用など)を検討してください。
- この記事は一般的な情報提供を目的としており、特定のサービスの規約や法的な手続きについて断定的な助言を行うものではございません。個別の状況については、各サービス提供者や専門家にご確認ください。
まとめ
二段階認証や生体認証は、ご自身のデジタル資産を守る上で非常に有効なセキュリティ対策です。しかし、これらの設定は、もしもの時にご家族がデジタル遺産へアクセスする際の障壁となる可能性があります。
ご家族が困らないようにするためには、ご自身のデジタル資産にどのようなセキュリティ設定がされているかを把握し、代替認証手段などの情報を整理しておくこと、そして何よりも、その情報がどこにあるのかを信頼できるご家族に明確に伝えておくことが大切です。
早めにこれらの対策を講じ、ご家族とデジタル遺産について話し合う機会を持つことで、将来の不安を軽減し、安心して日々の生活を送ることができるでしょう。