親世代のためのデジタル資産棚卸し:まずは「見える化」から始めましょう
親世代のためのデジタル資産棚卸し:まずは「見える化」から始めましょう
デジタル遺産の整理について、「何から手をつければ良いか分からない」と感じている方もいらっしゃるかもしれません。膨大なデータやオンラインアカウントを前に、途方に暮れてしまうのは自然なことです。
物理的な財産であれば、通帳や証券、不動産登記など、形として存在するものをリストアップすることから始められます。しかし、デジタル資産は形がなく、どこに何があるのか、自分自身でも全てを把握していないことがあります。だからこそ、デジタル遺産整理の最初のステップとして、「棚卸し」を行い、自身のデジタル資産を「見える化」することが非常に重要になります。
この棚卸しを行うことで、ご自身のデジタル資産の全体像を把握し、その後の整理や家族への引き継ぎをスムーズに進めるための土台を築くことができます。
なぜデジタル資産の「棚卸し」が必要なのでしょうか
デジタル資産は、インターネットや様々なサービスを利用するにつれて、自然と増えていきます。メールアカウント、SNS、オンラインショッピングの履歴、インターネットバンキング、証券口座、クラウドストレージに保存された写真や動画など、その種類は多岐にわたります。
これらの資産は、たとえご自身にとって価値がないと感じるものであっても、第三者にとっては個人情報の塊であったり、金銭的な価値を持っていたりする場合があります。また、大切な思い出の写真や連絡を取り合っていた方々とのやり取りが詰まったアカウントもあります。
もし、これらのデジタル資産が整理されないままになってしまうと、ご家族はご本人がどのようなサービスを利用していたのか、どこに大切なデータがあるのかを知ることができません。結果として、解約手続きやデータの取り出しに時間と手間がかかり、最悪の場合はアクセスすらできなくなることもあります。
ご自身のデジタル資産を棚卸しし、リスト化しておくことで、ご家族がスムーズに手続きを進められるようになります。これは、残されるご家族への大きな配慮となるでしょう。
デジタル資産を「見える化」するための具体的な棚卸し手順
デジタル資産の棚卸しは、難しく考える必要はありません。まずは、ご自身が普段利用しているデバイスやサービスを一つずつ確認していくことから始めましょう。
ステップ1:利用しているデバイスを確認する
まずは、ご自身が日常的に使っているパソコン、スマートフォン、タブレットなどをリストアップしてください。これらのデバイスが、デジタル資産へのアクセスポイントとなります。
ステップ2:デバイスごとにアカウントを洗い出す
次に、それぞれのデバイスでどのようなオンラインサービスやアプリケーションを利用しているかを確認します。思いつくものを書き出してみましょう。
- パソコン: ログインが必要なウェブサイト(インターネットバンキング、証券会社のトレードサイト、オンラインショッピングサイト、クラウドストレージ、SNSなど)、インストールされているアプリケーション。
- スマートフォン・タブレット: インストールされているアプリ(SNS、メッセージアプリ、写真・動画アプリ、金融関連アプリ、ポイントカードアプリなど)、利用しているウェブサイト。
- その他: スマートスピーカー、スマート家電、ゲーム機などで利用しているアカウント。
ステップ3:メールアカウントを起点に広げる
普段使っているメインのメールアカウントを確認するのも有効な方法です。様々なオンラインサービスに登録する際に、メールアドレスが使われていることが多いため、受信トレイを遡って確認することで、利用しているサービスを思い出す手がかりになります。
ステップ4:クラウドストレージや外部ストレージを確認する
Google Drive、Dropbox、OneDriveなどのクラウドストレージや、外付けハードディスク、USBメモリなどに、どのようなデータ(写真、動画、文書ファイルなど)を保管しているかを確認しましょう。
リストアップすべき主なデジタル資産の項目
棚卸しを通じて洗い出したデジタル資産について、リストを作成することをおすすめします。リストには、少なくとも以下の情報を記載しておくと、ご家族が確認する際に役立ちます。
- サービス名/アカウントの種類: 例:Gmail、Facebook、〇〇銀行オンラインバンキング、Amazon、Dropbox、〇〇証券トレード口座
- 関連するメールアドレス: そのサービスに登録しているメールアドレス
- ユーザー名またはID: ログインに必要なID情報
- パスワード: パスワード自体をリストに直接記載するのはセキュリティ上危険です。後述する安全な管理方法で保管場所を明確にするか、「パスワードは別途△△(場所やファイル名)に記録」といった形で記載するのが良いでしょう。
- サービスの簡単な内容/目的: 例:家族との連絡用SNS、生活費の管理用銀行口座、思い出の写真保管場所、趣味のグループ活動
- アカウントの重要度/現在の利用状況: 例:非常に重要(毎月利用)、たまに利用、現在は利用していない
- 補足事項: データの種類(写真、動画、重要文書など)、残高や契約状況(大まかで良い)、解約・退会手続きの方法に関する覚書など
棚卸しをスムーズに進めるためのヒント
- 焦らず、できるところから: 一度に全てを行おうとせず、まずはメールアカウントから、あるいはよく使うサービスからなど、無理のない範囲で始めましょう。
- 過去の履歴を確認する: ウェブブラウザの閲覧履歴や、メールの送信履歴、アプリのインストール履歴などを確認すると、忘れていたサービスを思い出すことがあります。
- パスワードリセット機能を活用する: もしかして登録していたかもしれない、というサービスがあれば、パスワードリセットのページでメールアドレスを入力してみることで、アカウントの有無を確認できる場合があります。ただし、むやみに試すのは避けましょう。
リストの安全な保管と家族への伝え方
棚卸しをして作成したリストは、ご自身のデジタル資産のありかを示す非常に重要な情報です。このリストは、安全な方法で保管し、ご家族にその存在と保管場所を明確に伝えておくことが不可欠です。
- 物理的な方法: 紙に印刷して、エンディングノートや遺言書、大切な書類と一緒に保管し、保管場所を家族に伝える。
- デジタルな方法: パスワードで保護されたファイルとして、信頼できる場所に保管し、その場所とファイルにアクセスするためのマスターパスワードなどを家族に伝える。ただし、マスターパスワードの受け渡し方法については、別途安全な方法を検討する必要があります。パスワード管理ツールを利用することも一つの方法です。
- 専門サービスの利用: デジタル遺産管理サービスの中には、これらの情報を安全に保管し、指定した人に引き継ぐ機能を持つものもあります。
どのような方法を選ぶにしても、最も重要なのは「家族がリストの存在を知っていること」そして「必要な時にリストにアクセスできること」です。そのためにも、生前にご家族とこれらのことについて話し合っておくことを強くおすすめします。
まとめ
デジタル資産の棚卸しは、デジタル遺産整理の最初の、そして最も重要なステップです。自身のデジタル資産を「見える化」することで、その後の整理作業が格段に進めやすくなります。
最初は少し手間に感じるかもしれませんが、この作業を行うことで、ご自身のデジタルライフを整理し、将来のご家族の負担を大きく減らすことにつながります。
この記事でご紹介した手順やリストアップのポイントを参考に、ぜひご自身のペースでデジタル資産の棚卸しに取り組んでみてください。そして、棚卸しを通じて見えてきたことを、ぜひご家族と共有してみてください。それが、デジタル遺産に関するご家族の安心につながる第一歩となるはずです。