親世代のためのデジタル資産整理術:種類ごとの手順と注意点
はじめに
インターネットやスマートフォンが普及し、私たちの生活はますます便利になりました。オンラインでの買い物、銀行取引、友人とのコミュニケーションなど、多くのことがデジタル上で行われています。それに伴い、「デジタル資産」と呼ばれるものも増えています。
デジタル資産とは、インターネット上で保有している様々な情報や財産のことです。具体的には、オンライン銀行や証券口座、SNSのアカウント、電子メール、クラウドストレージに保存された写真や書類、さらにはオンラインサービスのポイントやゲームのアカウントなども含まれます。
これらのデジタル資産は、私たちが生きている間は便利に利用できますが、もしもの時に家族がその存在を知らなかったり、アクセスできなかったりすると、様々な手続きが滞ったり、大切なデータが失われたりする可能性があります。
この記事では、親世代の皆様がご自身のデジタル資産を整理し、ご家族が困らないようにするための具体的な手順と、種類ごとの注意点についてご説明します。
デジタル資産の「棚卸し」から始めましょう
デジタル資産の整理を始めるにあたって、まずはご自身がどのようなデジタル資産を保有しているのかを把握することが大切です。これを「棚卸し」と呼びます。
思いつくままにリストアップしてみましょう。
- オンライン銀行や証券口座
- 利用しているクレジットカードのオンライン明細やポイントサイト
- 電子マネーやQRコード決済のアカウント
- SNSアカウント(Facebook, LINE, Twitterなど)
- メールアカウント(Gmail, Yahoo!メールなど)
- クラウドストレージサービス(Google Drive, iCloud, Dropboxなど)
- 有料の音楽・動画配信サービス、電子書籍サービス
- ショッピングサイトのアカウント(Amazon, 楽天市場など)
- 航空会社やホテルのマイレージ・ポイントプログラム
- スマートフォンやパソコンに保存されているデータ(写真、動画、文書など)
- 利用しているオンラインゲームのアカウント
リストアップする際は、サービス名だけでなく、利用している可能性のあるメールアドレスやユーザー名なども書き出しておくと、後で整理しやすくなります。
デジタル資産の種類別整理方法と注意点
デジタル資産は多岐にわたりますが、いくつかの種類に分けて整理を進めると効率的です。
1. 金銭に関わるデジタル資産(オンライン銀行、証券口座、電子マネーなど)
これらの資産は、ご家族が相続手続きを行う上で特に重要な情報となります。
- 確認事項:
- 利用している銀行名、支店名、口座番号
- 証券会社名、口座番号、保有している資産の種類
- 電子マネーや決済サービスの残高、紐づけているクレジットカード情報
- 整理方法:
- 利用しているサービスの一覧を作成します。
- 各サービスのログイン情報(ユーザー名、パスワード)を整理します。
- もし残高が少ない、あるいは全く利用していない口座があれば、生前に解約することも検討しましょう。
- 重要な取引履歴や残高情報は、必要に応じて印刷したり、データとして保存したりしておくと良いでしょう。
- 注意点: ログイン情報そのものをエンディングノート等に記載する場合、保管方法には十分な注意が必要です。後述するパスワード管理の方法もご参照ください。
2. コミュニケーション・情報共有に関わるデジタル資産(SNS、メール、クラウドストレージ)
これらの資産には、ご自身の思い出や大切な人とのやり取りが含まれていることがあります。
- 確認事項:
- 利用しているSNSの種類とアカウント情報
- メインで利用しているメールアドレスとサブで利用している可能性のあるメールアドレス
- 利用しているクラウドストレージサービスと保存データの内容
- 整理方法:
- SNSは、アカウントをそのまま残しておくか、削除するか、追悼アカウントに移行するかなどを検討します。各サービスによって死後に関するポリシーが異なりますので確認しておきましょう。
- メールは、重要なメール(契約情報、金融機関からの通知など)を整理し、必要に応じてバックアップしておきます。不要なアカウントは解約を検討しましょう。
- クラウドストレージは、保存されている写真や文書などを整理し、家族に見せたいもの、残しておきたいものをまとめておきます。容量を確認し、不要なデータは削除します。
- 注意点: メールアカウントは様々なサービスのパスワードリセットに利用されることがあります。重要なメールアドレスの情報は慎重に扱いましょう。SNSの友人関係なども考慮し、ご自身の希望をまとめておくと良いでしょう。
3. 各種オンラインサービス(有料サービス、ショッピングサイトなど)
サブスクリプションサービスなど、定期的に支払いが発生するものは特に確認が必要です。
- 確認事項:
- 利用している有料サービス(音楽、動画、新聞、ソフトなど)
- 年会費や月額費用が発生しているサービス
- ポイントを貯めているショッピングサイトやサービス
- 整理方法:
- 利用中の有料サービスをリストアップし、契約内容や支払い方法を確認します。不要なものは解約を検討しましょう。
- 貯まっているポイントに価値があるか確認します。サービスによっては死後失効するものもあります。
- 各サービスのログイン情報を整理します。
- 注意点: 年間契約などの場合、途中で解約すると違約金が発生することがあります。契約内容をよく確認しましょう。
パスワード管理の重要性
デジタル資産にアクセスするためには、パスワードが不可欠です。しかし、セキュリティのために複雑なパスワードを複数設定している場合、ご自身でも管理が大変になりますし、ご家族が困る原因となります。
- 整理方法:
- 一覧化: 利用しているサービス名、ユーザー名(または登録メールアドレス)、パスワードを一覧にまとめます。このリストは厳重に保管する必要があります。
- 安全な保管: パスワードリストを紙に書き出す、パソコンやスマートフォンのメモに残す、特定のファイルに保存するなど、様々な方法がありますが、情報漏洩のリスクを考慮する必要があります。
- アナログ管理: 手書きのノートや印刷したリストを、金庫など家族以外が安易にアクセスできない場所に保管する方法です。紛失や火災のリスクはありますが、オンラインでの情報漏洩リスクはありません。
- デジタル管理: パスワード管理ツール(パスワードマネージャー)を利用する方法があります。これは一つのマスターパスワードで全てのパスワードを管理できる便利なツールですが、ツール自体のセキュリティや、マスターパスワードをどう家族に伝えるかが課題となります。また、暗号化したファイルをクラウドストレージに保存する方法などもありますが、専門知識が必要となる場合があります。
- 注意点: どのような方法を選ぶにしても、その保管場所やマスターパスワード(またはそれに類する情報)を信頼できる家族に確実に伝える方法を考えておくことが最も重要です。
家族との対話と情報共有
デジタル資産の整理は、ご自身だけで完結するものではありません。整理した情報を、ご家族に「どのように」「いつ」伝えるかが非常に大切です。
- 伝え方:
- エンディングノートの活用: デジタル資産のリストやパスワード管理方法、ご自身の希望(アカウントを削除してほしい、特定のデータは残してほしいなど)をエンディングノートに記載することは有効な手段です。ただし、パスワードそのものを記載する場合は、ノートの保管場所を厳重にする必要があります。
- 話し合いの機会を持つ: 生前に、ご家族とデジタル資産について話し合う時間を持つことをお勧めします。「こういうサービスを使っている」「こういう情報がデジタル上にある」といった大まかなことからでも構いません。
- 情報の保管場所を伝える: パスワードリストやエンディングノートなど、まとめた情報をどこに保管しているのかを、信頼できるご家族に正確に伝えておきましょう。
まとめ
デジタル資産の整理は、少し手間のかかる作業かもしれません。しかし、ご自身が元気なうちに計画的に進めておくことで、もしもの時にご家族が混乱するのを防ぎ、大切な情報や財産を守ることができます。
まずは、ご自身がどのようなデジタル資産を持っているのかを「棚卸し」することから始めてみましょう。次に、種類ごとに整理を進め、パスワードの管理方法を検討します。そして何より大切なのは、整理した情報を信頼できるご家族と共有し、いざという時に家族が困らないように準備しておくことです。
この記事が、皆様のデジタル資産整理の一助となれば幸いです。