親世代のためのデジタル遺産:貯まったポイントやマイルの整理と家族への伝え方
はじめに:見落としがちなデジタル資産「ポイント・マイル」
デジタル資産の整理と聞いて、オンライン銀行口座や証券口座、あるいはSNSアカウントなどを思い浮かべる方は多いでしょう。しかし、日々の生活の中で知らず知らずのうちに積み重なっている、もう一つの大切なデジタル資産があることをご存じでしょうか。それは、オンラインサービスの利用で貯まる「ポイント」や「マイル」です。
ECサイトでの買い物、航空券やホテルの予約、クレジットカードの利用、さらにはスマートフォンのキャリアサービスや街の店舗アプリまで、様々な場所でポイントやマイルが付与されます。これらは現金のような「資産」として認識されにくい傾向がありますが、使い方によっては経済的な価値を持つものです。
もしもの時、ご家族がこれらのポイントやマイルの存在に気づかなかったり、利用方法が分からなかったりすると、せっかく貯めた価値が失われてしまう可能性があります。ご家族に負担をかけず、これらの資産も円滑に引き継いでもらうためには、事前の整理と情報共有が大切です。
この記事では、親世代の皆様が、見落としがちなポイントやマイルといったデジタル資産をどのように見つけ、整理し、そして大切なご家族へ伝えておくべきかについて、具体的に解説いたします。
自分が持っているポイントやマイルを「見える化」する
デジタル資産整理の第一歩は、「自分が何を持っているか」を正確に把握することです。これは、ポイントやマイルについても同様です。しかし、様々なサービスを利用していると、どこでどれくらいのポイントやマイルを貯めているか、すべてを把握するのは難しいかもしれません。
まずは、現在利用している主なサービスをリストアップしてみましょう。
- ECサイト: Amazon、楽天市場、Yahoo!ショッピングなど
- 航空会社: ANA、JALなどのマイレージプログラム
- 鉄道会社: JR各社のポイントプログラムなど
- クレジットカード: 各社ポイントプログラム
- 携帯電話キャリア: 各社ポイントプログラム
- オンラインサービス: 旅行サイト、家電量販店サイト、ドラッグストアサイトなど
- その他: 普段利用するお店のポイントアプリなど
これらのサービスのアカウントにログインし、現在のポイント残高やマイル数を確認してみてください。多くのサービスでは、ウェブサイトやスマートフォンのアプリから簡単に確認できます。
もし、どのアカウントを持っているか思い出せない場合は、過去のメールの受信履歴や、スマートフォンのホーム画面にあるアプリ一覧などを手がかりに探してみるのも有効です。サービスからのポイント付与やキャンペーンに関するメールが届いていることがあります。
リストアップしたサービス名、ログインに必要なID(ユーザー名やメールアドレス)、パスワード、そしておおよそのポイント・マイル残高などを一つの場所にまとめて記録しておくと良いでしょう。これは、後述する「デジタル資産リスト」作成にも繋がります。
ポイント・マイルの整理:残すか、手放すか
自分が持っているポイントやマイルが「見える化」できたら、次にそれぞれのポイントやマイルを今後どうしたいかを考えます。主な選択肢は以下の二つです。
- 残しておく(家族に使ってもらうことを想定する)
- 価値が低い・使わないため整理・処分する
それぞれの選択肢について、具体的な方法と注意点を見ていきましょう。
残しておく場合(家族に使ってもらうことを想定)
ご家族にポイントやマイルを利用してもらいたい場合、最も重要なのは「家族がアカウントにアクセスできるようにしておくこと」です。
- アカウント情報の共有: サービス名、ログインID、パスワードなどの情報を、ご家族が安全にアクセスできる方法で保管・共有する必要があります。後ほど解説するデジタル資産リストやパスワード管理ツールの利用が有効です。
- サービス規約の確認: 大半のポイントプログラムやマイレージプログラムの規約では、原則としてポイントやマイルの譲渡、売買、相続は認められていません。もしもの時、ご家族がアカウントにログインしてポイントを利用することが、規約上問題がないか、あるいはサービス提供者側が「故人の利用」と見なした場合にどう対応されるかなど、事前に確認しておくことが望ましいです。ただし、これは複雑な問題を含む場合があるため、心配な場合はサービスのサポートに問い合わせるか、専門家にご相談ください。あくまで情報共有は、規約違反のリスクがあることを理解した上で行う判断となります。
- 有効期限の確認: ポイントやマイルには有効期限が定められていることが一般的です。ご家族が気づかないうちに失効してしまわないよう、主なサービスの有効期限を把握しておき、家族に伝える情報に含めておくと親切です。
価値が低い・使わないため整理・処分する場合
ほとんど利用していないサービスや、ポイント残高がごくわずかで使い道がなさそうな場合は、ポイントやマイルだけでなく、関連するアカウント自体を整理することを検討しましょう。
- アカウントの解約: 不要なアカウントを解約することで、情報の漏洩リスクを減らし、管理の手間も省けます。サービスのウェブサイトやアプリから、アカウント解約の手順を確認し、手続きを進めてください。ポイントやマイルは、解約時に自動的に失効することがほとんどです。
- ポイントの失効: アカウントを解約せずとも、長期間利用しないことでポイントやマイルが自動的に失効する場合もあります。積極的に処分したい場合は、ポイントを使い切るか、あえて放置して有効期限切れを待つという方法もあります。
整理した情報を家族へ安全に伝える
ポイントやマイルを含むデジタル資産の整理が終わったら、その情報を大切なご家族へ伝えることが不可欠です。どんなに完璧に整理しても、ご家族がその情報にアクセスできなければ意味がありません。
情報を伝える方法には、いくつかの選択肢があります。
- デジタル資産リストの作成: 自分が保有するデジタル資産の種類(ポイント・マイル、オンライン銀行、SNSなど)ごとに、サービス名、ログインID、パスワード、登録しているメールアドレスや電話番号、簡単な説明などを一覧にしたものを作成します。紙媒体、データファイル(パスワードで保護したもの)、または専用のデジタル資産管理ツールなどを利用できます。ポイントやマイルについては、前述の棚卸しで作成したリストが基盤となります。
- エンディングノートや遺言書への記載: 法的な効力はありませんが、エンディングノートにデジタル資産の存在やリストの保管場所を記載しておくことは、ご家族が情報を探し出す上で非常に役立ちます。遺言書に特定のデジタル資産に関する指示を含めることも可能ですが、法的有効性については専門家にご確認ください。
- パスワード管理ツールの活用: パスワード管理ツールの中には、緊急時に信頼できる第三者(家族など)にパスワード情報を共有できる機能を持つものがあります。ただし、サービスの規約によっては、IDやパスワードの共有が禁止されている場合があるため、注意が必要です。
- 家族との話し合い: 最もシンプルで効果的な方法は、ご家族と直接話し合うことです。デジタル資産についてどのように整理しているか、作成したリストや情報の保管場所などを共有しておきます。特にポイントやマイルのように、規約上の制約がある可能性のある資産については、その点を踏まえた上でどうしたいかを話し合っておくことが、後々のトラブルを防ぐために重要です。
ご家族に伝える情報は、定期的に更新することを忘れないでください。新しいサービスを利用し始めたり、パスワードを変更したりするたびに、記録を最新の状態に保つことが大切です。
まとめ:ポイント・マイルも大切な資産として整理を
オンラインサービスのポイントやマイルは、つい見落としてしまいがちなデジタル資産です。しかし、これらも積み重なれば無視できない価値を持つことがあります。
もしもの時、ご家族が大切な資産の存在に気づき、困ることなく手続きを進められるようにするためには、生前の整理と情報共有が不可欠です。
まずは、自分がどのようなポイントやマイルを保有しているかを棚卸しし、「見える化」することから始めましょう。そして、それぞれをどう扱うか(残すか、整理するか)を決め、必要に応じてアカウント情報やサービス規約を確認します。最後に、整理した情報を安全な形でまとめ、大切なご家族へしっかりと伝えておくことが重要です。
ポイントやマイルの整理は、他のデジタル資産整理と並行して進めることができます。この記事でご紹介した情報を参考に、ご自身のデジタル資産整理の一歩を踏み出していただければ幸いです。